KAJIYA BLOG

人文系大学教員の読書・民藝・エッセイブログ

新潟紀行(2)ー出雲崎

新潟市から海岸線を南下すると出雲崎という古い町に至る。

出雲崎町の人口は4,000人程度。日本海側の静かで小さな港町といった風情だが、歴史的にも文化的にも重要な地域である。

今となっては、北陸自動車道上越新幹線信越本線出雲崎は通過せず。
JR越後線が走るばかりだが、それとて沿岸地域には駅からは距離がある。
アクセスには国道352号を海岸線に沿ってうねうねと走ることになる。行きやすいところとは言えない。

これまで新潟は三度訪問していたのだが、訪問は叶わなかった。
そこで今回の出張ではレンタカーを借りて新潟から柏崎に向かうことにし、かねてより訪問を願っていた出雲崎に立ち寄った。

 

出雲崎は江戸期天領であった。佐渡で産出される金の積み下ろし港であったからである。

出雲崎に降ろされた金は北国街道を通り、柏崎、長野、上田、小諸と経由して江戸まで運ばれた。北国街道沿いは、妻入り家屋が立ち並び、長岡藩という強力な藩をとなりにしながら、それ以上の繁栄をしていたといわれる。

旧街道は当然道幅も人や馬サイズだから、現代の自動車道には適さない。すでに街並みが出来上がっている集落の場合、海岸沿いを固めて自動車道が走る。したがって旧街道は国道の一本内側の生活道路となる。

その旧街道は、妻入り家屋の町並みとして古い風情の今に残している。その様子については、以下の出雲崎町公式サイトに美しい写真が紹介されている。ぜひ参照してみてほしい。

https://www.town.izumozaki.niigata.jp/kanko/spot/tsumari.html

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出雲崎・旧北国街道

旧街道沿いに「出雲崎寄港地の町家」という一般公開されている妻入りの古民家がある。ひとまず見学。中を見せてもらった。

入り口正面の間口は狭いが、奥に長い。京都の町家を思い出す。二階や明かり取りやさまざまな生活の工夫がある。北前船の寄港地の一つでもあったから、豪商も多い。

ボランティアガイドのおじいさんにもしばらく話を聞いた。

途中自分が北海道からやってきたことを告げると、途端に親近感を示してくれた。
北陸越後にはそういう方が多い。
北前船がつないできた北海道との縁は今でも根強く残っていることを思う。

おじいさんの話し方や人となりは、なぜか親戚のおじさんを思い出させた。
雰囲気が北海道の道南に近いように感じ、道南出身の自分もまた親近感を覚える。あるいはそういう気分になっているだけかもしれないが。

ひとしきり北海道と出雲崎の繋がりについてのお話を伺い、また出雲崎の歴史の話を伺い、大変勉強になった。

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妻入り家屋・出雲崎寄港地の町家

 


出雲崎良寛の生まれ故郷としても名高い。その後、良寛記念館にも立ち寄る。小高い丘のうえにある、静かで落ち着く建物だ。公園からは出雲崎の町を一望できる。夕陽が綺麗だという。

ただ夕陽を待っている時間はない。というのも、出雲崎ではもう一つの目的地があったからだ。

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良寛記念館

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良寛記念館より出雲崎港を一望


出雲崎でもう一箇所訪問したい場所、それは街の小さな古書店『蔵と書』さんである。

このお店は地域おこし協力隊として出雲崎に赴任した石坂優さんという方が、本屋のない街に本と人の出会いの場を作りたいという思いで作った書店+ギャラリーだ。
妻入り造りの古民家(もとは薬屋の倉庫だったとか)をリノベーションして一階を子供向け絵本中心の古書店に、二階をギャラリースペースとして開店したのだそう。

古民家に古書店、ギャラリーとは全く似つかわしい組み合わせだ。
本当にゆったり落ち着いた空間で、自由に本を読んだり、ギャラリーでは写真やイラストを眺めたりできる。
(お店のいい雰囲気はネットで検索してみてほしい。自分では敢えて写真を撮っていない。雰囲気の良い店内では、あまり写真を撮らない主義だから)

人口のそう多くないエリアで人が来るのだろうかと思っていると、その後子供連れの親子など続々やってきて、予想以上ににぎやかだ。地域の人々の集まる交流の場になっているようだ。

バッグやブックマークなどのオリジナルグッズを物色していると、本のタイトルを隠して、文章の一節のみを紹介するいわゆる”目隠し文庫”があった。こういう本との出会い方はとても楽しい。
もちろん私も一冊記念に選んでみたのだが、石坂さんいわく、「意外とやわらかいのを選びましたね」( ̄ー ̄)ニヤリ。
気になりつつも、購入。こういうのは宿に帰ってからのお楽しみにして開けずにおく。

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目隠し文庫

少しお店の話などを聞きながら楽しく過ごし、帰り際に新潟のおすすめのお酒についてたずねた。途中で買ってホテルで飲みながら、今購入した本でも読もうという魂胆である。

石坂さんはお酒は飲まないというが、お店にいた女性のお客さんに聞いてくれた。その女性は外の車で待っている夫がお酒好きなので、おそらくいろいろ教えてくれるだろうということでわざわざ電話で呼び出してくれた。ただの酒好きの話にここまで親身になってくれることに恐縮しつつ、嬉しい気持ちで、ご主人に会う。

「新潟の全国流通している一般的な酒ではなく、地元ならではの銘酒があったら教えてほしい」と図々しく聞くと、大変ご親切にも「超辛口大吟醸無濾過生原酒 景虎」他様々な銘柄を教えてくれた。私の知らないお酒である。(私はお酒は好きだが詳しいわけではない)
重ね重ねお礼を述べつつお店を辞し、早速柏崎へ向かい酒屋さんで探してみると、ちょうどおすすめされた「景虎」を発見。入荷されたばかりの限定商品とのこと。酒店の方によると、それほど簡単には入手できないもののよう。たいへんラッキーである。

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超辛口大吟醸無濾過生原酒 景虎

こういう人や本との出会いの場がとにかく好きで、出張先で時間があると(あるいはなくても理由をつけて)、古書店やブックカフェ、ギャラリーなどを巡って旅の思い出にしている。
今回も「蔵と書」さんにお邪魔して石坂さんだけではなく、他の地元の方とも思わぬ交流ができた。
全国各地、地方に行くと大抵はこういうホスピタリティ豊かな方々に出会える。
これが旅の魅力だ。

 

宿に帰り「景虎」を飲む準備をしながら、目隠し文庫を恐る恐る開けてみた。出てきたのは、なんと!吉本ばなな『白河夜船』。
なるほど、( ̄ー ̄)ニヤリの意味がなんとなくわかった。

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目隠し文庫から出てきたのは『白河夜船』

吉本ばななは『キッチン』くらいは読んでいるが、普段はまったく守備範囲外の作家だ。ある意味避けて通って来たかもしれない。
しかし、本とのこういう出会いも悪くない。いや、こうなると開き直って出会うしかない。出会ってみてやろうという気にもなる。そして、出会ってみると、人と同じで良いところが見えてくるものだ。

めぐり合わせに感謝して、景虎をやりつつ、吉本ばななを読んだ。