KAJIYA BLOG

人文系大学教員の読書・民藝・エッセイブログ

余市とフットパスのことなど

4月9日(土)は余市町におじゃましてきました。

今、余市町の方とともに、フットパスコースの検討をしようという計画が持ち上がっています。その事前打ち合わせと下見を兼ねての訪町です。

フットパスとは「歩くことを楽しむための道」のことです。日本国内でも、フットパスの設定や整備の取り組みは数多くあります。だいたい数キロから十数キロ程度のルートを示し、地域を歩く方のガイドとしています。

地元の方も旅行者も、フットパスをガイドに歩くことで町の様子や風景、歴史文化を楽しむことができるわけです。

ところで、歩くだけなら自由に歩けばいいのでは?と思う人もいるはず。
確かにそうです。

が、実際、旅先などで街を適当に歩いてみると、道というのはそんなにどこも快適に作られているわけではないと気づきます。映える風景もそうそう都合よく現れてくれるわけでもありません。
近所をお散歩しようとしても、楽しく歩ける道はどれほどあるでしょうか。

一般人が通行できない道もあれば、歩道が整備されておらず危険な道もあります。
あまり見た目も良くなく、車が激しく行き交う道もあって、楽しむどころか気疲れしてしまう道もあるでしょう。
また、車道はスマホの地図アプリで知ることができます。でも、人しか歩けないような小径まではなかなかわかりません。そしてそういう小径にこそその地域ならではの光景が広がっていたり、自然に触れる場所があったり、ちょっとした地域の方との交流があったり、そういう体験ができるものです。

楽しく歩くためには、ちょっとしたガイドや整備が必要なのだと思います。

このフットパスは、イギリスが発祥と言われます。
私も10年ほど前からご縁を頂いてフットパスという文化に惹かれ、いくつかのコースを歩いて来ました。
本場イギリスに行ったときにも湖水地方コッツウォルズを歩いたことがあります。
(かといってヘビーウォーカーではありません。気が向いたら歩くといった程度です。出張先で歩きやすそうなコースがあれば、ふらりと歩くこともあります。この敷居の低さもフットパスの魅力です。)

イギリスで感じたのは、フットパスを大切に管理して守ろうとする地元の方々と、フットパス・ウォーキングを楽しむ人々の多さと意識の高さです。
コースはきれいに整備され、案内板やマップも充実しています。沿道の方は概ねウォーカーを歓迎するマインドの持ち主が多いと感じました。普通の住人の方だと思われますが、そういう方から何気なく「Hi!」「Hello」という声をかけられます。また地域の方もよく歩くようです。生活に根付いていることがわかります。

イギリスで体験したフットパスの写真をいくつか紹介しましょう。
(ちらちら登場するのは私の家族です。小さなこどもでも、簡単な装備でも、いつでも気軽に楽しめるのがフットパスです。登山やトレッキングのような気合はいりません)

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イギリス湖水地方のグラスミア・フットパス 牧場の中でも自由に通行可能です。

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フットパスの道標 walkers welcomeの文字が見えます。こういう一言があると気持ちよく歩けます。

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グラスミア湖周回コース。湖とマナーハウスがとてもよく似合います。

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途中にはワーズワースのお墓も。文学にも触れます。

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場所は変わって、コッツウォルズのバイブリー村。世界一美しい村として有名です。

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バイブリーにも気持ちのいいフットパスがあります。

 

 

イギリスだからこんな綺麗でおしゃれな風景が広がっている、というわけではありません。イギリスでも見栄えのしない場所はあります。道が悪いところ、歩道のせまいところもあります。街中のスプレーの落書きは本当に目障りです。

ですので、こういうきれいで落ち着いた道があるのは、長い年月をかけて地域の人々が地域を愛し、歩きやすい道を整備し、きれいな景観を守り育んできた結果なのでしょう。

また、歩く側の人々もルールやマナーを守り、その地域の歴史文化や食、産物を尊重し、景観を楽しむというマインドがあります。先程も書きましたが、行く先々では地元の人もウォーカーたちも気軽に挨拶や会話を交わす習慣があります。

私から見てフットパスの最大の魅力は、フットパスを基点にそこに集う人々が、この「マインド」を共有することなのではないかと思っています。

よその土地に行ったときに、「walkers  welcome! 私たちが守ってきた道を楽しんで!」というメッセージが感じられた時、歩くことは最高に楽しいものになります。

・清掃や整備の行き届いた道。ウォーカーのために工夫された景観。
・歩いている人に気軽に「Hello!」と挨拶をする開放的な雰囲気。
・案内板に見られる地域外の人が困らないための配慮。

良いフットパスとは、インスタ映えする自然や景観、建築物があることによるものでは決してなくて、地域全体で醸すWelcomeでフレンドリーな雰囲気によるものであるように思います。

歩いていると地域の方々に感謝の気持ちと親近感が湧き上がってきて、思わず挨拶を交わしてしまいます。その地域が好きになり、半日でもその地域に溶け込みたいという気持ちになります。これがイギリスはじめ、これまでのフットパス経験から得た私の考えるフットパスの魅力です。

この度、北海道のエコ・ネットワーク様および余市町の方から、この余市フットパス・プロジェクトに私の大学のゼミ生にも加わりませんかというお誘いをいただき、喜んでお引き受けしました。町外の学生たちにもこの体験を通して、フットパスの魅力を知ってもらいたいし、こういう人間味のある地域活性化を肌で感じてもらいたいと思うからです。

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余市町沢エリアから余市港方面を望む

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ワイン葡萄畑。夏には緑に覆われるはず。

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旧下ヨイチ運上家 余市には歴史的建造物も多く残される

春早い余市町はまだ緑もなく少しそっけない風景です。でも夏になれば緑に覆われてきれいな風景が広がるはず。それ以上に、地域のWelcomeマインドが加われば、海山川丘果樹園食酒となんでも揃っている余市は最高のフットパスエリアになるはず。

これからどんな展開になるのか、楽しみです。